ひとつのお皿に特殊技法をいろいろ盛り込んだ作品の紹介です。初めて使う溶剤などは、どのような仕上がり具合になるのか、まずは本番でない作品で事前に実験してみることをおすすめします。
焼成後の失敗は修正できないことが多いので、失敗してもよい白磁を使って行いましょう。
目次
特殊溶剤の実験
実験用に使う白磁は、全く新品のものを使うのも勿体ないので、私は昔に描いてもう二度と見ないようなしまい込んでいる古い作品のものを使ったり、その作品の裏側の糸底の内側を使ったりしています。
今回は15∼16年前に描いてしまい込んでいたカキツバタのお皿の余白を使って実験したものです。紫色のカキツバタ以外の面は真っ白のままでしたが、真っ白だったところへいろいろと隙間なく特殊溶剤を付けてみました。
デザインは結果オーライで、最初からはっきり決めておらず、実験のための作成なので、作業しながら思いつくまま仕上げました。
写真は公開する予定なく、自分だけのための記録として撮っていたものなので、画像の写りがいまいちだったり、撮り忘れ部分もありますがご了承ください。
【第1工程】金彩・銀彩
① 外側の縁に銀液を塗る
② 内側の縦と横ラインにブライト金液を塗る
③ 今回の作業での1回目の焼成780℃
ポイント
- もちろん塗る前にテープマスキングをする
- 銀液は濃いこげ茶になるくらい濃いめに塗らないと焼成後は刷毛目がめだったりしてきれいではない
- ブライト金液は薄い塗り具合でも焼成後は発色します
【第2工程】各マスキング
① 金彩・銀彩を焼成後、内側の作業のためにテープマスキング(黄色)する
② 花の上をマスキングリキッド(赤色)する
ポイント
- 花の縁部分のみを、あとで剥がしやすいように厚めにマスキングリキッドをぬる
- 赤色のマスキングリキッドは水溶性 なぜなら絵の具が油性だから 水溶性メディウムで溶いた絵の具を塗る場合は緑色のマスキング剤を使ってください
【第2工程】マスキングリキッドで絵を描く
① 要所にテープマスキング
② 花の影部分になるところ等にマスキングリキッドで線画風に花・葉を描く
③ 覆った花の影部分に青・紫・ピンクを絵の具を境目がないように適当に塗る(この手法は、トップ写真の左側扇型の白磁の縁部分にも同じことをしています)
【第2工程】2種のラスターをぬる
上記のつづき
① マスキングリキッドで囲った葉の形部分に金彩
② パールラスターを左~上の外側のスペースにぬる
③ 水色ラスターを花の背景にぬる
ポイント
- ラスターの焼成前は、色がどれも同じように見えるので、色をまちがえないように注意
- ラスターは色ごとに必ず筆を決めておく。洗って違う色を使わないよう、ラスターの種類ごとに専用の筆をそれぞれに決めておくこと。
- ラスターを落とすときは、ラスター油ですすぎ、さらにさっぱりさせるためアルコールでも洗う。洗いが不十分だと筆が固まります。
- ラスターの筆はナイロン製でOK
- パールラスター用の筆は丸筆で、くるくる円を描くように塗ると焼成後の発色が良い
- 水色ラスターは平筆で横へながしていくペンキ塗りでOK
- ラスターはどの色もあまり厚ぼったく塗らない
- ラスターを塗るときの筆さばきは何度も同じところを往復しすぎないように注意する(できれば一回でサッと塗り終わるのがベスト)
【第2工程】マスキングをすべて剥がす
上記のつづき
① 上記の作業後にマスキングテープ、リキッドをはがした状態
② 今回の作業での2回目の焼成780℃
ポイント
- 前回作業の金彩や銀彩にかすれた部分や塗りのこしがあった場合は、今回の時に上から再度塗っておく
2回目の焼成後
① 銀彩
② パールラスター
③ ブライト金彩
④ 水色ラスター
⑤ マット金彩
⑥ 花の影絵部分に絵の具
ポイント
- ラスターそれぞれの色がきれいに発色しています
- 水色ラスターは「水色」という名前がついていますが、紺~紫の色になります
【第3工程】ラスター上に模様マスキング
①要所にテープマスキング
② パールラスターの上にシャープペンで適当にフリーハンド模様を描く
③ 水色ラスターの上ににも適当な模様をつけ、それぞれをマスキングリキッドでなぞる
④ パールラスター部分にパールホワイト絵の具をパディング
⑤ 水色ラスター部分にメタリックピンクとメタリックブルーを混ぜて薄紫系の色にしてパディング
ポイント
- 焼成後のラスター上は普通のシャープペンなどでハッキリした線画が描ける
- 絵の具をパディングするときは速乾水溶性メディウムで溶く
- 私は「適当」が多いのですが、マスキング画に下絵はなく思い付きで唐草模様など隙間を埋めるように適当に付けています
【第3工程】マスキングをはがす
赤矢印のところ、パディング後にマスキングをはがした一部分です。シャープペンで描いた後が残っています。
ポイント
- パールホワイトも、ベースのパールラスターも一見したら白色なので、写真では見分けがつきませんが、焼成するときれいな模様として浮き出てきます
- 全てのマスキングをはがして、3回目の焼成780℃
3回目の焼成後
前回、マスキング模様をつけて、絵の具でパディングしたところが、焼成後にすかし模様として浮き上がってきました。
ここまでの工程で、カキツバタだけ描いていた時の皿とは、かなり違った雰囲気のデザインになりました。しかし作業はまだ続きます。
【第4工程】縁に模様線描き・花影に線描き・チッピングオフ
① 縁の銀彩の上に黒絵の具+線描きメディウムでペン描きの模様を加える、メタリックゴールド+透明盛り(3:7)で間にドットを加える
② 写真は仕上がり後ですが、チッピングオフで釉薬剥がしをした後にマット金をぬる
③ 同じくチッピングオフで釉薬剥がしをした後に銀液をぬる
④ 細かくて写真では分かりませんが、花の影部分に絵の具を塗ったところと、マスキングリキッドをはがして白磁が見えているところには、アンティークゴールド+線描きメディウムでアウトラインをペン描きします(色と白磁の境目はそのまま放っておかない)
⑤ 4回目の焼成780℃
ポイント
私は今回の作業を実験的にあまり計画性なく、その都度の思い付きで進めていたので、この回でチッピングオフしましたが、もし最初からチッピングオフを使う予定なら、第2工程の段階でしておくべき作業でした。
【第5工程】ガラスビーズを加えて最終焼成
↑赤矢印のところ 極小ガラスビーズ
① 赤矢印のところ(縦横の金ラインの上と、花影絵で絵の具を塗っておいたところ) 透明盛り+速乾油性メディウムを溶いたものを筆でぬり、極小ガラスビーズを散らす。
私はAmazonで見つけたガラスビーズを使っています。安くてたくさん入っています。
ポイント
のり替わりの透明盛り+油性メディウムを塗ったところにしか、ガラスは引っ付かないので、特にマスキングなどはしません。上からパラパラとビーズを振りかけて、皿を傾け残ったビーズは元に戻します。ビーズ上は優しく軽く押さえる。
↑黒矢印のところ 青色ガラスビーズ
② 黒矢印のところ 透明盛り+速乾油性メディウムを溶いたものを筆で点置きして青色のスワロフスキー製ガラスビーズをピンセットでそっと置く。
ポイント
- 各ガラスを置いたら、よく乾かし、5回目焼成760℃(この温度より低いと極小ビーズは焼成後もパラパラと取れてしまいます)
- 出来上がりのアップ写真のとおり、極小ビーズは形の変化がないが、青色のガラスビーズは穴あき六角だったものが、穴はなくなり丸く形が変わります。
- ソロバン型ビーズ。プラスチック製はもちろん不可。スワロのガラス製がおすすめ。
特殊溶剤を使った作品制作工程のまとめ
① ラスター
左:パールラスターの上にパールホワイト絵の具
右:水色ラスターの上にメタリックピンク&ブルー絵の具
② 極小ビーズ
③ チッピングオフをして金彩&銀彩
④ ビーズ玉
説明しきれませんでしたが、パールラスター上には、パールホワイト絵の具の盛りや、水色ラスター上にも盛りを施しています。
金彩した葉の部分は、焼成した金の上からラスターを塗ったりもしています。(写真ではほぼ分からず)
焼成温度について、今回の作業で5回の焼成、その前の絵を描く段階でたぶん2回の焼成で計7回焼成の作品となりましたが、上記のとおり780℃ばかりで数回焼成していますが、元の花絵の部分にはまったく影響ありませんでした。
元の絵の時に左下の落款は、絵の具のレッドを使用していますが、こちらも何度も焼成したわりには全く影響なしでした。
写真と工程記事を書き並べるだけでも時間がかかってしまいましたが、実際にこの作業工程をするのも、時間がかかりとても面倒なのですが、わくわくする気持ちもあり楽しめた実験でした。この作品を見てくださったうちのお生徒様も頑張ってほぼ同じ工程で作品作りをされました。
【2018年1月制作作品】